写 真展  『 私はこういく。 君は?』 2005.12 seta -shop gallery


写真集本文より  ↓
『序 :こんにちは。この度はこの写真展に足をお運びいただき本当に ありがとうございます。
 そもそもこの写真展が企画されたいきさつからお話いたします。
1995年より注文靴の製作を仕事にしている私がseta-syop galleryの真田さんに靴の展示をしませんか、とさそわれたのは4年前のことです。その冬と翌冬とに靴の個展はひらかれて大好評を頂きました。同じこ ろ私の仕事には転機がおとずれつつありました。生産が注文においつかない。3回目の冬は靴ではなくカバン展と成りました。
 そして今回です。
 別の変化が内面にもおとずれていました。靴を作るのが自分の仕事と 思っていたのが靴を媒介してメッセージを発している仕事なのだと気づかされつつあった にです。
 メッセージは発信していたいが靴展は無理、カバン展も無理。そこで 思いついたのが写真展。写真は押せば簡単に取れる。
 昨秋、雨の金沢を散歩していた時のこと、木戸の風合いがきれいだ な、石段のコケがいい具合だな、このハダ感をもちかえりたいな、良いハダと良いハダのサ カイメを写真で撮ってならべよう、ということは瞬時にまとまりました。
 そしてそこに在ったコンビニで「写るんです」を買い、15ヶ月間の 撮影が始まったのです。その手法がメッセージと思いこみつつ。
  



『1 :旅写真にはがっかりさせられることが多いいです。現実のほうがはるかに美しい画 面だっ たとがっかり。本気でとろうとイチガンだサン キャクだと持参すると荷もつが旅を阻害する。なのでカメラを持ち歩くなんてしない。
 金沢で写真のこころみを思いついた時、そこに在ったコンビニで「写 るんで す」を買った。この手はとてもいいなと思った。
コンビには日本中どこにでもあるし旅先でおもいついたらどこででも美 しい記 憶を写しとめられる。一枚一枚の画質ではなくベタヤキ全体でおもいでに成ればい いな。技術はいらない、機材もいらない、「この一枚!」を取りのがしたところで気にもならない。
 取っているとついついハダとハダのサカイメではなく線を探してし まってい る自分に気づくウププ感だけでなく絵として美しい事が大切なのだと言いきかせ直 しつつ。
  



『2 :写真展ということでいろいろ様々な写真の可能 性のア イデアがどんどん芽ぶきます。現実とは違う写真ならではの力がある。
 バスをものすごく長くすることは簡単だ。
 雪の日と晴れの日が同居できる。
 過去と未来がかさなる。
 丸いものがた平になったり、大きいものが小さく成ったり、上下もい れかわ り、遠くのものおとなりに。
   

   


『3 :気軽で楽しくて安心だと思っていた写真の企て でした が、撮り進むうちに気がかりが生じました。
 画質です。この際たいした留意点でもないと思っていた画質が気に成 りはじ めたのです。 悪い意味で悪い画質の絵など「なくて良いもの」。
 そして作為的だな、重いな、わざわざだなと色々頭をかすめてはいる のだ が、この気がかりから前進したくてイチガンを手に撮るつもりで撮りに出かけてみた のです。そして現像があがってきました。
 意外なものでした。写っていたのは良い画質、それと自分自身の好み だった のです。錆びたり、朽ちたり、傷ついたりしたハダ。古いもの。新しいものなら下 手なもの。真正面。コントラストが強い、又はかすか。色がきれい。撮るつもりで撮るとそんな物ばかり。いつもの仕事(靴)を肯定するかのような項目ばかり だったのです  頭をかすめた心配事も新発見がふきとばします。さらに期待して茅ヶ崎、長崎へもイチガンをわざわざ持って行ったのです。好みの被写体は都 会には少ない。 都会のまったくまったくつまらぬ価値観がそれらを悪い意味で上手に塗りつぶしているのだろう。
   



『4 :満足な画質を手に入れた私の頭は客観視にたち かえり ます。 どの町で撮ったのも同じ写真に成っていないか?出会いというより探して いるではないか? そこで私は仕事場の板きれたちに自分でペンキを塗り乾くのを待たずともシャッターをきります。

 展示会が近づきタイムリミットを向かえこの企てはここで完了です。 一番は じまりののぞみは思いどおりに叶い、その後道をはずれた思いもよらなかった流れ には、踏みこむたびにハラハラし、わくわくし、結果本業とくらしの良い指針をみつけてしまいました。
 15ヶ月間の途中では、画質に葛藤したり、カメラの故障があった り、くら しや本業の忙しさが最高潮に達したり、いろいろありましたが___なんでもやっ てみるもんだ___というごくありふれた感想が今の強い強い実感です。
   

   
     
   

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